近年徐々に認知度が上がってきたヘルプマークですが、皆さん実物をご覧になったことはありますか?
今回はヘルプマーク所持者のAさんのお話を伺い編集部でまとめました。Aさんは産後うつも対象者になると考え、産後うつになって約半年ぐらいからヘルプマークを付けています。今回はヘルプマークをつけている利用事例やメリットとデメリットをお話ししていだきます。
目次
ヘルプマークってなんだろう?
ヘルプマークは赤いベースに白い十字とハートのマークがついています。一見オシャレで鞄につけているように見えますが、これは身体的または精神的、その両方で援助や配慮を必要としている人が、そのことを周囲に知らせることができるマークです。2012年に東京都の都営地下鉄で配布を開始し、今は郵送や全国の自治体の福祉課などで配布しています。
対象者は
- 義足や人工関節を使用している方
- 内部障害や難病の方
- 妊娠初期の方など
- 援助や配慮を必要としている方等……
東京都福祉保健局ではヘルプマークを身に着けた方を見かけたら以下のように呼びかけています。
電車・バスの中で、席をお譲りください。
外見では健康に見えても、疲れやすかったり、つり革につかまり続けるなどの同じ姿勢を保つことが困難な方がいます。 また、外見からは分からないため、優先席に座っていると不審な目で見られ、ストレスを受けることがあります。
駅や商業施設等で、声をかけるなどの配慮をお願いします。
交通機関の事故等、突発的な出来事に対して臨機応変に対応することが困難な方や、立ち上がる、歩く、階段の昇降などの動作が困難な方がいます。
災害時は、安全に避難するための支援をお願いします。
視覚障害者や聴覚障害者等の状況把握が難しい方、肢体不自由者等の自力での迅速な避難が困難な方がいます。
ヘルプマークは特定の障害や疾病がある人がつけるだけではなく、見た目ではわからない症状で援助や配慮を必要としている人なら誰でも付けられます。
メリット1:障害や病気に対して配慮してもらいやすい
見た目ではわからない障害や病気がある場合、周りに配慮して欲しくても、それを周りに伝えるのが非常に難しいです。日常生活でわざわざ「私、障害があるんです。配慮してください」とは言いにくいと思います。
電車の中で体調が悪くなったら……
例えば、電車に乗った時、途中から体調が悪化して座わらないと倒れてしまいそう……そんな時、見た目は健常者と変わらないので体調が悪化していることが伝わらず座席に座れない。譲ってもらえることもない。優先席に座りたくても健常者なのに優先席に座っているように見えて周りの目がつらく感じることがあります。見た目ではわからない障害や病気がある人は毎日がこういうことの連続です。
見た目ではわからない”できないこと”があったら
Aさんは産後から階段やエスカレーターを上り下りしようとすると原因不明の恐怖感に襲われるようになりました。ひとりでは手すりを使って階段を一歩ずつ上がることはできても、手すりがなければ一歩も前には進めませんし、長い階段は手すりがあっても困難です。エスカーレーターは怖くてまったく乗れません。
駅や商業施設でどうしても上り下りしたい場合はエレベーターを探すのですが、エレベーターをやっとみつけたと思ってもAさんの見た目は健常者。特に今はコロナ禍で密にならないようにと張り紙が貼ってあり、エレベーター内の人数が制限され必要ない人は乗らないように貼り紙が貼ってあることも。Aさんはエレベーターが必要なので乗りたいのですが、「杖をついてない」「車椅子でもない」「ベビーカーでもない」周りから見た目は健康そうな成人女性なのになんでエレベーターに乗っているんだと思われてるのはヒシヒシと感じたと言います。
そういった時にヘルプマークをつけていると、ヘルプマークの意味を理解している人からは「この人は配慮が必要なのでエレベーターに乗っている」と認識され、お互い気持ちよく利用することができます。
Aさんは具体的に「階段やエスカレーターを利用するのが困難」という理由がありますが、例えば産後うつで街中で一歩も動けなくなってしまったり、飛行機に乗る時に優先的に乗らないとパニックが起きる可能性がある人にもヘルプマークは有効だと思います。
メリット2:障害や疾病があることがすぐ伝わる
産後うつママは日頃から精神科や心療内科に通院している人が多いです。そのことを、他の病院に行った時に伝えるのが困難な場合があります。お薬手帳を見せて伝える方法がありますが、救急で病院に行った時、お薬手帳を持ち歩いてなかったり、自分がうまく伝えることができない場合がありますよね。そういった時にヘルプマークは役立ちます。
ヘルプマークのおかげで助かったこと
ある時、Aさんが怪我をしてしまい、休日診療時間に救急で病院に行った時のことです。受付をして待合で診察を待っていたら、ひとりの看護師さんが話しかけてきました。
何の障害や病気がありますか?今はお薬は何を飲んでますか?と言われます。なんでわかったんだろうと不思議に思っていたら「あ!ヘルプマークだ!」と気が付きました。看護師さんはAさんの鞄についているヘルプマークを見て、障害や病気があると認識してくれ、迅速に対応してくれました。自分から話すのが困難な時や話しづらい時でも、相手から聞かれたら話しやすいですよね。ヘルプマークを持っていてよかったとAさんはお話してくださいました。
他にも、飛行機に乗る前、地上スタッフがAさんの鞄に付いているヘルプマークに気がついて「お手伝いが必要なことがあればなんでも言ってくださいね」と声をかけてくださったのも大変助かったそうです。飛行機はタラップで乗り降りをしなればいけない時があります。そうなると階段が困難なAさんにとっては恐怖感に襲われ一歩も動けず、他の乗客に迷惑をかけてしまうなんてことにもなりかねません。事前に声をかけていただいたことで、そういったことがないか確認がしやすいので非常に嬉しかったとお話してくださいました。
メリット3:災害時に役に立つ
災害や非常時に障害や病気があり配慮が必要かどうか、伝えるのは困難な場合があります。家族と行動をしている時であれば、Aさんの症状は家族が把握しているので周囲に伝えることは難しくありません。それがAさんやお子さん、もしくはAさん一人だった場合はどうでしょう。お子さんはまだ小さいのでAさんが障害があるということはまだ認識できません。Aさんのかわりに周囲に伝えるのは難しいです。Aさん一人の時でも、災害時の混乱の中では配慮や薬が必要なことはうまく伝えられないかもしれません。
ヘルプマークには症状や服薬している薬を記入することができる
そんな時にヘルプマークがあれば、まずは障害や病気があることが伝わりますし、ヘルプマークには中に紙が入れられるようになって、その紙に具体的な症状や飲んでいる薬などを記載できます。
例えば、お子さんと二人の時に災害が起きたとします。そんな時でもAさんは薬が必要です。でも、見た目が健常者と変わらないので、薬が必要な障害者だとは認識されにくいでしょう。子どものことも守ると同時に自分のこともなんとかしなければいけない。そういう時にヘルプマークがあれば、周囲に伝わる可能性が少しでも高くなると考えていらっしゃいます。
そもそもAさんがヘルプマークを付け始めたのはこの災害時について考え始めたのがきっかけでした。東日本大震災があり防災意識が高まって、もし今何か起きたらできることはやっておきたい。そういう気持ちからヘルプマークの存在を知り、まだ知名度が低いうちから鞄に付けるようになったそうです。
デメリット1:認知度が低くて伝わらない
ヘルプマークは初め東京都だけで配布されていた東京発信のマークです。全国で配布されるようになったのはここ2、3年ほど。全国的にはヘルプマークの意味を知らない人が多く、同じマークなら妊婦さんがつけるマタニティマークのほうが認知度は高いでしょう。
以前Aさんはママ友からヘルプマークを見て「このマークはたまに見かけるけどどういう意味なの?」と聞かれたことがあります。積極的に知ろうとしてくれる人は教えることもできますが、ヘルプマークは知る機会がまだまだ少ないと思います。
認知度が低くては障害や病気があることは伝わりません。Aさんはわかる人にわかればいい。という気持ちで5年ほどつけてられてるそうですが、ここ1年ぐらいは付けている人も増えて声をかけていただく機会も増えたとお話されていました。もっと社会的に認知度が上がれば利便性が上がると思います。
デメリット2:障害者だと表明すること
ヘルプマークの最大のメリットは、周囲に配慮してもらえることになりますが、裏を返せば自分は障害者や病気があると周囲に知られてしまうデメリットがあります。ヘルプマークを付けている以上、常に自分が障害者や病気があるとアピールすることと同じこと。自分の障害や疾病を伝えたくない人にとってはセンシティヴな問題でヘルプマークを付けることはデメリットと言えるでしょう。
ヘルプマークは障害者手帳のように取得すると自分が障害者だと認識するというだけではなく、障害者であることを周囲に知られ「私には配慮が必要だ。」という気持ちを知って欲しいという表れになります。
周囲の目が気になってしまう
例えば、保育園のお迎えの時、鞄に付けているヘルプマークを他のママが見て「あの人は障害者なんだ」とAさんやお子さんのことを偏見の目で見られることになるかもしれません。そうなると、それまでの人間関係が崩れてしまうことも考えられます。
Aさんは認知度が低い時からヘルプマークを付けているので付けることに慣れてしまっているところがあるとお話されていました。また、最初から配慮して欲しい気持ちよりも、わかってくれる人がいたらラッキーくらいの軽い気持ちで付けているそうで、周囲の目はあまり気されてないそうです。ヘルプマークの付け方もキーホルダーと組み合わせて一見そういうデザインのキーホルダーのように見せています。
配慮して欲しい気持ちと自分が障害者だと表明することをよく考えて、マークを付けるか付けないか考えて欲しいです。
ヘルプマークをうまく活用しよう
ヘルプマークについて、Aさんの視点を通しメリットとデメリットをご紹介しました。産後うつママはいろんな場面で配慮が必要な人が多いと思います。ヘルプマークをうまく活用して、少しでも負担なく生活できることを願っています。
取材・執筆/豆岡ショカ 編集/リアママ編集部